判の通り却て兼次の手引をしてやる位なものである。おすがの親爺は夜になればいつでもぐでん/\に醉拂つて前後も知らずに轉がつてしまふ。兄貴は若い嫁と裏の中二階へ昇つて寢てしまふ。それに傭人が兼次の邪魔抔はしないといふことに極つてるのだから攫《つか》まつた追はれたといふ騷ぎも聞かなかつたのである。然し村の噂が高くなると共に親類縁者の少しは小口の聞けるといふ手合が捨ておけないといふことで相談をした結果、それぢや兼次の家は財産は足らぬが貰ふといふなら一層の事おすがをやつたらよからう。嫁にとらぬといふならすつぱり手を切つて兼次をよこさぬやうに掛合はなければならぬと決した。おすがの叔父に伊作といふ博勞がある。此が又兼次の親爺と別懇だ。親爺は恐ろしい馬好で春も暖かになつて毛が拔け代つて古い毛が浮いたやうに幾らか殘つて居るのを見ると堪らなくなつて往來へ引き出しては撫でさすつて居るといふ程なのだから自然博勞の伊作が別懇になつた譯である。だから村では四つ又を除いては立入つた噺の出來るのは此の伊作である。伊作は一晩親族の惣代といふ名目で前條の掛合をした。然しそれは無效であつた。伊作は四つ又程には呑んでかゝるこ
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