こと貰つちやつたらどうだ」
「此めえ親類うちから世話されたこともあんだが檢査めえだからつて斷つたんだから其方へ對したつて貰あ所の騷ぎぢやねえ」
「徴兵檢査ツてゆつてもあと三十日が四十日で大概《てえげえ》どうか極らな、そんで兵隊に出たにした所で兩方で極めてだけ置く分にや差支あんめえ。そんなことゆふな理窟つちいものぢやねえか」
「おらどうせ馬鹿だから構はねえが、どうしたつてうんたあ云はれねえ」
「酷くをかしなこといふんだな、そんぢや外に氣にらねえことでもあんのか」
「氣にらねえたつて餘まり人を馬鹿にしべえと思ふんだ。おらぢの野郎が甘口だつて何もお袋まで一緒になつて人の相續人に障るやうなことして呉れねえでもよかんべと思ふんだ。おらどうせ馬鹿だから理窟なんざあ解らねえがさうぢやあんめえか。此間だつて兼が出だす晩にも後で氣がついて見りや裏の垣根《くね》のあたりに二人ばかりうろ/\して居たんだがおらちやんと見當がついてんだ。それぢやおれだつていめえましかんべえ。なあにあんな野郎うちに居なけりや居ねえたつて困らねえから、云ふこと聽かなけりやぶち出すだけだ。おれ幾ら體が弱つたつてあら位な小わつぱにやまあだ自由にされねえ積だから」
「そんなに怒つて騷がねえたつておすがことせえ貰へば怨みもつらみもあんめえ。あつちのお袋だつておすがも可愛いし兼次も可愛いしなんだからこつちせえ譯がわかれば仲よく暮せるつちいもんぢやねえか」
「檢査濟まねえうちはどうしたつて貰あわえから駄目だよ」
 四つ又もどうせ駄目とは思つてもいふだけのことは云つて見ようといふ譯なんだが然しかう出ては槍が降つても迚ても駄目だ。四つ又もそれは知つて居る。
 兼次の家の庭には垣根について栗の大木がある。松と松との間にあるので枝が一方庭の方へばかり延び出して垂れ下つて居る。房の如く長い花が一杯に白く咲いて居る。白い毛の生えた大きな毛蟲が葉をくつて枝の先にくつゝいて居る。栗毛蟲は構はずに置けばみんな葉を骨ばかりにしてしまふ。兼次の兄の太一が毎日長い竹竿で其栗毛蟲を落して居る。栗毛蟲は強くしがみついて容易に離れないのを太一は氣長に叩いて落ちたのを足で踏み潰す。太一は此を近來の役目のやうにして飽きもせずにやつて居る。兼次には男の兄弟が三人もあつたのだ。一人は十になるかならぬで鬼怒川で溺死をした。其次は此の太一である。此も十位の頃から癲
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