しい戦士のそれよりも深刻な、痛切な、徹底的な争闘を争闘しつゝあることを信ずる。
 欺かれても宜い、それが迷ひであるならば迷ひであつても宜い。よしそれが夢であらうと、幻であらうと私は静黙の扉に立つて、私の内心に共鳴する驚異の世界のいのちの楽の音を聴かう。もしそのいのちが私のいのちを鼓舞するならば、もしその幻が私の生活の基調となつて、私の生活を根柢から動かして行くものであるならば、それは私にとつて真実である。現実である。私の個性が静黙の扉前に立つことによりて、真実の自己を見出すことを得、真実の生命を実感することができるならば、それこそ私にとつて絶対無二の現実でなくて何であらう。
 自然! それがつゝめるあらゆる驚異! 私は汝の永久に鎖されたる扉前に立ちて汝を崇拝する。汝の慟哭は私の慟哭であり、汝の生長は私の生長である。汝が私語く時私は聴き、私が祈る時汝は私に聴く!
 私は永久に汝に面し、汝と語らう。沈黙せよ、沈静せよ、そこに始めて汝と私との心と心とが共鳴の楽を奏づる。
 森よ眠れ、白き翅の鳩よ眠れ、天空に眠れ、流れよ暗のなかに沈め!
 沈黙と暗黒と寂滅! そこに始めて真実の生命が動き、真実
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