の時ほど、エリザベートが魅惑的に見えたことはなかった。エリザベートは、私たちに忘れさせようとほねおることで、自分の歎きをさえ忘れてしまったのだ。
私の出発の日はとうとうやってきた。前の晩はアンリ・クレルヴァルが私たちといっしょに過ごした。自分も私といっしょに行って同級生になることを父親に許してもらおうと、自分の父親をしきりに説きつけていたが、だめだった。父親というのは、量見の狭い商人で、息子の抱負や野心を怠惰や破滅だと見ていた。アンリは自由な教育を禁じられる不幸を痛感し、黙りがちだったが、口を利いたときのきらきらした眼やその眼のいきいきした動きに、商売などのみじめなはしくれにつながれてはいないぞ、という、抑えてはいるがしっかりした決意を私は看て取った。
私たちは遅くまで起きていた。おたがいに別れるのがいやで、「では、さようなら!」と言う気にはなかなかなれなかった。やっとそれを言い、あいてをたがいにだましたつもりで、すこし休息するということを口実にして寝室へ引き上げたが、夜明けに私を乗せて行く馬車のところまで降り立って行くと、みんながそこに立っていた。父はふたたび私を祝福し、クレルヴ
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