アンリの気もちを述べることができるだろう。アンリはお伽ばなしの国につれていかれたような気になって、人間としてめったに味わえない幸福にひたった。「僕は自分の国のいちばん美しい景色を見ている。ルツェルン湖やウリ湖にも行ったが、あそこでは、あの華やかな眺めで人の眼を慰める青々とした島々がなかったら、陰欝で悲しげな風景になりかねない黒い底知れぬ陰を投げて、雪に蔽われた山々が、ほとんど垂直に水辺に迫っていた。あの湖水があらしに波立つのを僕は見たが、そのときは、風で水の渦巻ができて、大海の竜巻とはこういうものにちがいないと思うくらいだったよ。そして、浪が怒り狂って山の麓にぶつかったが、そこでお坊さん夫妻が雪崩に押しつぶされ、今でも夜風のあいまに、二人の死に瀕した声が聞えるという話だ。僕はラ・ヴァレー山脈やペー・ド・ヴォー湖も見たことがある。しかし、この国はね、ヴィクトル、いっさいのそういうものより僕の気に入ったよ。スイスの山のほうがもっと雄大で変っているが、このすばらしい河の岸には、まだ比べになるものを見たことのない魅力がある。むこうの絶壁にさしかかっているあの城をごらんよ。あの美しい木立の葉に隠
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