れました。
 そこでいよいよマルコは父親も承知してくれたので旅立つことになりました。父と兄とはふくろにマルコの着物を入れ、マルコのポケットにいくらかのお金を入れ、おじさんの所書《ところがき》をもわたしました。マルコは四月の晴れた晩、船にのりました。
 父親は涙を流してマルコにいいました。
「マルコ、孝行の旅だから神様はきっと守って下さるでしょう。勇気を出して行きな、どんな辛いことがあっても。」
 マルコは船の甲板に立って帽子をふりながら叫びました。
「お父さん、行ってきますよ。きっと、きっと、……」
 青い美しい月の光りが海の上にひろがっていました。
 船は美しい故郷の町をはなれました、大きな船の上にはたくさんな人たちが乗りあっていましたがだれ一人として知る人もなく、自分一人小さなふくろの前にうずくまっていました。
 マルコの心の中にはいろいろな悲しい考えが浮んできました。そして一番悲しく浮んできたのは――おかあさんが死んでしまったという考えでした。マルコは夜もねむることが出来ませんでした。
 でも、ジブラルタルの海峡がすぎた後で、はじめて大西洋を見た時には元気も出てきました。望《のぞ
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