とうございます。」
 主人は「そんなことをいうものではない」といって女の手をとって慰めました。
 けれども彼女はまるで死んだように眼をとじていました。主人と奥さんとはろうそくのかすかな光でこのあわれな女を見守っていました。「家を助けるために三千里もはなれた国へきて、あんなに働いたあとで死んでゆく。ほん当に可哀そうだ。」主人はこういってそこにぼんやりと立っていました。
 マルコはいたい足をひきずりながら、ふくろをせおって次ぎの日の朝早くアルゼンチンの国でもっともにぎやかな町であるツークーマンの町へはいりました。ここもまた同じような街で、まっすぐな長い道と、ひくい白い家とがありました。ただマルコの目をよろこばしたものは大きな美しい植物と、イタリイでかつて見たこともないようにすみ切った青空でありました。彼は街をずんずん歩いてゆきました。そしてもしか母親にあいはしないかと女の人にあうたびにじっと見ました。女の人みんなに自分の母親でないかたずねてみたい心持になりました。街の子供たちは四五人あつまってきて、みすぼらしいほこりだらけの少年をじっと見ていました。
 しばらく行くと道の左かわにイタリイの
前へ 次へ
全31ページ中25ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
日本童話研究会 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング