たか。わたしのおかあさんです。おかあさんをつれて行きましたか。」
マルコはふるえるような声でききました。
若い女の人はマルコを見ながらいいました。
「わたしは知りませんわ、もしかするとわたしの父が知っているかもしれません、しばらく待っていらっしゃい。」
しばらくするとその父はかえってきました。背の高いひげの白い紳士でした。
紳士はマルコに
「お前のおかあさんはジェノア人[#「ジェノア人」は底本では「ジェノマ人」]でしょう。」
と問いました。
マルコはそうですと答えました。
「それならそのメキネズさんのところにいた女の人はコルドバという都へゆきましたよ。」
マルコは深いため息をつきました。そして
「それでは私はコルドバへゆきます。」
「かわいそうに。コルドバはここから何百|哩《まいる》もある。」
紳士はこういいました。
マルコは死んだように、門によりかかりました。
紳士はマルコの様子を見て、かわいそうに思いしきりに何か考えていました。が、やがて机に向って、一通の手紙を書いてマルコにわたしながらいいました。
「それではこの手紙をポカへ持っておいで、ここからポカへは二時間ぐらいでゆかれる。そこへいってこの手紙の宛名になっている紳士をたずねなさい。たれでも知っている紳士ですから、その人が明日お前をロサーリオの町へ送ってくれるでしょう、そこからまたたれかにたのんでコルドバへゆけるようしてくれるだろうから。コルドバへゆけばメキネズの家もお前のおかあさんも見つかるだろうから、それからこれをおもち。」
こういって紳士はいくらかのお金をマルコにあたえました。
マルコはただ「ありがとう、ありがとう」といって小さいふくろを持って外へ出ました。そして案内してくれた少年とも別れてポカの方へ向って出かけました。
二
マルコはすっかりつかれてしまいました。息が苦しくなってきました。そしてその次の日の暮れ方、果物をつんだ大きな船にのり込みました。
船は三日四晩走りつづけました。ある時は長い島をぬうてゆくこともありました。その島にはオレンヂの木がしげっていました。
マルコは船の中で一日に二度ずつ少しのパンと塩かけの肉を食べました。船頭たちはマルコのかなしそうな様子を見て言葉もかけませんでした。
夜になるとマルコは甲板で眠りました。青白い月の光りが広々とした水の上や遠い岸を銀色に照しました、マルコの心はしんとおちついてきました。そして「コルドバ」の名を呼んでいるとまるで昔ばなしにきいた不思議な都のような気がしてなりませんでした。
船頭は甲板に立ってうたをうたいました、そのうたはちょうどマルコが小さい時おかあさんからきいた子守唄のようでした。
マルコは急になつかしくなってとうとう泣き出してしまいました。
船頭は歌をやめるとマルコの方へかけよってきて、
「おいどうしたので、しっかりしなよ。ジェノアの子が国から遠く来たからって泣くことがあるものか。ジェノアの児は世界にほこる子だぞ。」
といいました。マルコはジェノアたましいの声をきくと急に元気づきました。
「ああそうだ、わたしはジェノアの児だ。」
マルコは心の中で叫びました。
船は夜のあけ方に、パラアナ河にのぞんでいるロサーリオの都の前にきました。
マルコは船をすててふくろを手にもってポカの紳士が書いてくれた手紙をもってアルゼンチンの紳士をたずねに町の方をゆきました。
町にはたくさんな人や、馬や、車がたくさん通っていました。
マルコは一時間あまりもたずね歩くと、やっとその家を見つけました。
マルコはベルをならすと家から髪の毛の赤い意地の悪そうな男が出てきて
「何の用か、」
とぶっきらぼうにいいました。
マルコは書いてもらった手紙を出しました。その男はその手紙を読んで
「主人は昨日の午後ブエーノスアイレスへ御家の人たちをつれて出かけられた。」
といいました。
マルコはどういってよいかわかりませんでした。ただそこに棒のように立っていました。そして
「わたしはここでだれも知りません。」
とあわれそうな声でいいました。するとその男は、
「物もらいをするならイタリイでやれ、」
といってぴしゃりと戸をしめてしまいました。
マルコはふくろをとりあげてしょんぼりと出かけました。マルコは胸をかきむしられたような気がしました。そして
「わたしはどこへ行ったらよいのだろう。もうお金もなくなった。」
マルコはもう歩く元気もなくなって、ふくろを道におろしてそこにうつむいていました、道を通りがかりの子供たちは立ち止ってマルコを見ていました。マルコはじっとしておりました。するとやがて「おいどうしたんだい。」とロムバルディの言葉でいった人がありました。マルコはひょっと顔を
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