行になります。長い時は一週間ぐらゐになります。そんな時は、早く――巣鴨の――家に歸りたくなります、不思議なもので、自分の居處と定まつた『巣鴨の幽居』が慕しくなるのです、そして巣鴨の鐵門をくぐり、衣服を全部改めて古巣に入れられると『やれやれ無事に歸れてよかつた』といふ安心感に滿たされます。
 この古巣には、最初大杉と山口とが、右と左の兩室にゐたが、山口が病氣になつて病監に移され、次で大杉が怪我をしたとかで矢張り病監に行きました。私にも病監のなぞがかけられましたが、遂にあのこく寒の室に頑張り通しました。兩手の甲と耳たぼとは凍傷でひどくなり、遂には皮膚がカサぶたになつて脱落するに至りました。
 暫らくすると、今度は堺と大杉とが入つて來て、右に堺、左に大杉が据ゑられました。大杉は一旦出獄して、また新事件でやつてきたのです、數週前に東京監獄から手紙をくれた堺が、自分の姿を見せてくれたので嬉しかつたが、二人は間もなく出獄して、私はまた一人ぼつちになりました。丁度その時讀んでゐた『平家物語』の島流しの俊寛は、二人の同志がゆるされて故郷に歸る時、その船に取りすがつて海水が首に達するまで離さなかつたとい
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