たしは全我を傾けて海老名先生に沒頭しました。そして洗禮を受けました。それは東京法學院を卒業してから間もない時でした。
澄子さんとの間に愛の誓ひが交はされたのも、その當時でありました。同宿の友は暑中休暇で歸郷したので一人で二階にゐたわたしは、澄子さんと談らふ時間と自由とを心ゆくまで與へられました。しかし、過ちを再びしてはならない。敗殘の身、けがれた身ではあるが、心だけは淨らかにして、この戀は遂げなければならない。かう私は決心しました。わたしは天にも登るやうな嬉しさで眞に過去の惱みから救はれたことを感じました。
澄子さんは、或る時言ひました。高等官にでも辯護士にでもなられるやうに、試驗を受けて下さい。さうしないと親達にも話せないから。わたしは、そのことを快よく承諾しました。そして、大勇みで勉強にとりかかりました。學校になど稀にしか出たことのない私ではあるが、しかし自信だけは持つてゐたのです。法律なんていふものは人間の造つたもので、それに頭をつかふのは元來が低能者のすることと、きめてゐたのです。安心しきつて辯護士試驗を受けました。家に歸つて、問題とわたしの答案とを引き合はして見て、無論及
前へ
次へ
全127ページ中47ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
石川 三四郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング