が屡※[#二の字点、1−2−22]來著する、景山氏として有名な福田英子氏は頻繁に來訪する。こんなことから、家のお婆さんの私に對する態度は、漸く變つて來ました。明治三十四年七月、私が法學院を卒業した時には、お赤飯をたき大きな鯛の頭付を添へて祝意を表してくれました。その時、その母親の言葉に『これは澄子の志しなんですよ』といふ一語がありました。私ははつと思ひました。暑中休暇で高師の寄宿舍から歸つた澄子さんがお勝手元で働いてゐるのです。そして、靜かにこちらに向いて手をついて『お芽でたう御座います』といふ。それは靜肅そのものでありました。私は胸のときめくのを抑へて、ただ『有りがたう』と答へたのみでありました。

     戀する心

「婚約者がありながら、他の娘さんに關係するなんて、たちがわるいですね。そしてまたその兩方と別れてしまふ、そんな馬鹿げたことがありますか?」
 マダムは眞劍であつた。マダムは二心といふことが非常に嫌ひなのだ。それにフィヤンセーと分れたなら、子の母と結婚すればよい。その人とも別れるのは二重に罪を犯すことになる。自分の心を輕くするために他の苦しみを顧みないエゴイズムだ。と
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