最初は已を得ず泊めてもらつたのですが、それからは、こちらから泊めてもらふやうに時間を見計つて行くこともありました。この間に福田家に一凶事が起りました。それは福田氏が突然發狂したことであります。醫師の診斷では腦梅毒の結果で不治の病氣だといふ。新立銀行に出資された一萬圓の金も返し、看護のお手傳ひに頻々と福田家に行くやうになりました。かうした不幸を見るにつけて私の感情も冷靜な反省を呼ぶやうになりました。しかし氣の毒な娘は益※[#二の字点、1−2−22]熱中してゆく樣子でありました。福田家には病人の看護やなにかで男手の必要を感じ、屈強の若い男子を手傳ひに頼みました。私はその若者にいささかのしつとを感じました。その内に娘は祕かに身おもになつたことを告げるのであつたが、私は自身のしつと心に打ちまけて、それは私の責任ではあるまい、と反ばくさへしました。さうした時には娘はくやし涙にくれるのでありました。
 福田氏は遂に逝去しました。その混雜があると同時に娘は何れへか姿を隱しました。福田未亡人は、きつとあの若者のさしづだと私に告げるのでありました。私は何とも答へやうがありませんでした。ところがそれから幾
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