である」
 こんな要領の答をすると、檢事は一通の手紙を出してわたしに示すのでした。それは木下尚江が赤羽巖穴に送つたもので、わたしの留守中に赤羽が預けて置いた行李の中から見出されたものでありました。その手紙の要旨は
「先日石川が來て、今度入獄すれば病中の自分は必ず獄死するであらう。もし死んだら遺骸を引き取つて、二重橋外に晒してくれ、と言つてゐた。しかし僕はそのやうなことはしないで、普通に葬つてやるつもりだ」
 といふやうなものでありました、そして檢事は
「皇室に對して激しい敵意を持つてゐるやうであるがどうか」
 と、つめ寄つてくるのでありました。わたしはハッと驚きました。何しろ大逆事件の際であるし、また幸徳の家には屡※[#二の字点、1−2−22]出入してゐたので、事件に卷きこまれはせぬかと恐れたのです。
「何しろ天皇の名において刑の宣告が言ひわたされるのだから、わたしが木下にそのやうなことを計つたとすれば、それは自然の感情の發露でありませう」
 とわたしは答へました、そして更に加へました。
「昨日わたしのところで押收なされた『虚無の靈光』の中に、マルクス主義や無政府主義についてのわたしの
前へ 次へ
全127ページ中113ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
石川 三四郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング