視廳に引つぱられました。その搜索の際でした。判事か檢事か知らないが若い男が、わたしの大切にしまつて置いた澄子さんの寫眞と手紙とを探し出し、わたしの顏とその寫眞と手紙とを幾度も見かへすのです。神聖なものを汚がされたやうに感じたので、わたしはいささか怒氣を帶びましたが、若ものはそれに氣づいたと見えてていねいに元どほりたたんで包みました。
 警視廳における警戒はかつて經驗したことのない嚴重さでありました。その夜は留置所ではなくて大廣間に刑事二人がわたしの寢床の前後につきそうて不眠看守を續けるのでした。押收書類は徹夜で調べたのでせう。翌朝は早くから訊問を受けました。訊問の中心は皇室に對するわたしの考へを質すにありました。長い訊問應答においてわたしの述べた大體の意見は次のやうなものでした。
「學校の國際法の講義であなたがたも論究したことであらうが、將來世界が一つになる時、それを共和制に統一するか、君主制を以てするか、といふことが問題になるであらう。さうなれば日本の國體などは問題でなくなります。ではさしあたり、皇室に對して如何なる態度をとるか。わたしは暴力沙汰を排斥する、それは決して效果がないから
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