愚童ではありませんか。『やあ』『やあ』と一言かはしたばかりで、彼は浴場におしやられてしまひましたが、何の事件で彼がやつてきたのか聞きえなかつたのが殘念でした。しかも、この浴場での『やあ』『やあ』が、彼との永遠の別れのことばになつたのです。彼は何かの出版法違反事件で入つたのでせうが、そのまま幸徳等の大逆事件に連座するにいたつたのです。また東京監獄にゐる間に赤羽巖穴が面會にきて、これから旅にでるとて暫しの別れをつげるのでありましたが、彼はその直後、『農民の福音』といふ小册子を出版した件で、捕へられて入獄しました。そして、この鐵網へだてた面會が彼との永遠の別れになりました。わたしはそれから間もなく、千葉監獄に護送され、そこで赤旗事件で先入してゐた堺、大杉、荒畑、山川や、別口の西川などと久しぶりで對面し、入浴と體操でいつも一しよになりました。彼等がいづれも赤ばんてんに股引の勇ましい姿をして、元氣らしく見えるのが、うらやましいほどでした。それに引きかへ、事件の性質上輕禁錮であつたので、わたしは、じよなじよなと長衣をまとうてゐたので運動も思ふにまかせず、諸君がうらやましくてなりませんでした。わたし
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