の席上、堺と二人で幹事に選ばれ、そのまた皮肉をこつ稽にまで持つて行くべく、私は社會黨禁止令を拜受しに警察にまで呼び出されました。
 明治四十年二月二十三日の平民新聞の『平民社より』に堺が次のやうに書いてをります。
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「△今日は石川君と僕と二人、本郷警察署に呼び出された。僕は差支があつて、石川君だけ恐る恐る出頭した。御用の筋は社會黨黨則改正屆出遲延のお叱りで、全體社會主義者は公私を混合してイカン。一昨日堺に出頭を申遣はして置いたに、編集が忙しいの何のと勝手なことばかり言つて、而も電話なんぞかけて警察を馬鹿にしてゐる、況んや屆書は早速差出すと云ひながら郵便で以てソロリソロリと送つてよこす、實以て怪しからん次第だと御意あつた、所が旭山、是式の事で罰金を取られては叶ふまじと、僕の代りに恐惶頓首再拜してヤットの事でお詫びが濟んだ△ヤレヤレこれ丈であつたかと、旭山胸撫でおろして罷らんとする其時、警部君チョットと呼びとめ、實は今一ツ御達しすることがある(サア來た)是は少し御迷惑かも知れぬがと厭にニヤニヤして猫撫聲で仰せられる。旭山謹んで承たまはるに、それこそ即ち社會黨禁止の達しであつたのだ△序に今少し旭山を紹介する、彼は昨夜深更、如何なる物の哀を感じてにや、ふらふらと家をさまよひ出で(この一句深尾韶案出)半圓の月に浮れて十二社の森に遊び、少々風を引いて歸つたよし」
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 この最後の一節には覺えがないが、當時の激しい鬪爭の中で、平民社の内部の空氣が至極ほがらかであつたことを思ひ出させます。もう一つ堺の『平民社より』を紹介しませう。
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「△活版の工場にリュウちやんといふ十ばかりの可愛らしい女の子が居る――石川さんモウ原稿は出ないこと? ――などといつて使に來る、われわれの事業にもコンナ小兒勞働を必要とするかと思へば情なくなる」
「△旭山は控訴なんぞ面倒だから仕方ないといつて居る、檢事の方でも眞逆やりは仕まい、すると判決言渡より五日の後、即ち三十一日に確定となつて『明日檢事局に出頭しろ』といふ樣な通知が一日にくるとすれば、多分二日から入監することになるだらう」
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 この三十一日には、京橋區北槇町の池の尾といふところで、『石川君片山君送迎茶話會』といふのが開かれました。わたしの事件は檢事が控訴したの
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