く住んで居りますが、デンカ族の人たちが魚を捕へるためにヤスといふ道具を持ち、片足を上げて沼のほとりに佇んでゐる姿は鷺によく似てゐるといはれてをります。みんなその環境に影響をうけたのであります。
 石の多い地方には石工が多く、木の多い地方には木工が沢山あります。西洋で家を建てるのには石工が多く働き、日本では大工が多いのはその国の地理的影響によるのであります。西洋では家の壁から先に築いていきますが、日本では屋根を先に造ります。又、西洋では昔から石に人の肖像を彫りますが、日本では木に彫りつけます。所によつて家の建て方から美術工芸品の製作に至るまでみんな違つてをります。人間はいろんな技術や経済生活に至るまで何一つとして地から離れることは出来ません。この地に即し、地を愛し、大地の精神を汲んでいくところに郷土精神があり、そこに郷土芸術、郷土文芸が発達して来るのであります。而してこの郷土的なものが人間として最も美くしく、且つ健全であり、真実であります。この郷土的な意味を真実に発達させていくのが農民自治の精神であります。
 各地方の事情を重んじ郷土精神を発揮することに努めると、全体としてまとまりのない
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