農本主義と土民思想
石川三四郎

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【テキスト中に現れる記号について】

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(例)[#「農は天下の大本なり」に傍点]
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 此ごろ農本主義といふものが唱へられる。二十年来、土に還れと説いて来た私にとつては、とても嬉しい傾向に感じられる。たゞ『哲人カアペンタア』を書いて以来、私の考へ且つ実践して来た土民生活の思想と、今日流行の農法主義とは、些か相違するところがあるから、それを極めて簡略に説明して置きたい。
 私は先づこの両思想の相違点を大体三点に分けて見る。第一に、農本思想は治者、搾取者の側から愛撫的に見た「農は天下の大本なり」といふ原則から出たものであるが、土民思想は歴史上に現はれた「土民起る」といふ憎悪侮蔑的の言語から採つたものである。第二に、農本思想は農民を機械的に組織して他の工業及び交換の重要事業との有機的自治組織を考へないが、土民生活に於ては一切の産業が土着するが故に農工業や交換業が或は分業的に或は交替的に行はれて鞏固な有機生活が実現される。第三に、農本思想は階級制度下に無闘争の発展を遂げようとする百年前のユトピヤ社会
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