引き立てゝ呉れた。ほんとうに自然は無限の図書館である。無尽蔵の知識の籠であるやうに私には感じられた。私の六年間生活した土地は、パリーから七八十里も西南のボルドオの近所であつた。断崖絶壁をめぐらした三百|米突《メートル》の高い立場の村落で、城の跡であり、風光明媚、四季常に遊覧の雅人があとをたゝないと言ふ位の地方であつた。
さう言ふ所に居た私は、単に自然の与へる知識ばかりでなく、自然の美、自然の音楽、自然の画、と言ふ風なものに常に感激を受けながら働くことが出来た。
私はフランスを帰る時、日本に来ても斯うした百姓生活をしたいと思つて帰つたのである。
然るに、事、志しと違つて、生活にばかり追はれて、今日迄騒がしい生活を送つて来たのである。もと/\一角の土地を持つた人間でないのだから、百姓をしやうと思つたつてそれは不可能のことであつた。それも激しい筋肉労働に堪へるだけの体力を持つたならそれ専門に百姓になれるのだが、それも出来ぬのは文筆労働に生活を立てゝ来た懲罰だ。半農生活するより成り立たない。
今日、私がやり始めやうとする百姓生活は、ほんのまだ試験の第一歩なのである。この試験に依つてこの
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