府主義者ルクリユ氏の一族と共に百姓生活を始めたのである。
 ルクリユ氏は非常に百姓生活に興味を持ち、私も共々、農業の本を読むだり、耕作したり、それはあらゆる種類のものを実地に研究したのである。私は此処で足掛け六年間の生活をしたのであるが、私の生涯中、これ程感激に満ちた幸福な生活はこれ迄なかつた。
 あの欧州戦争の結果、従来の社会組織、経済組織が根本的に狂つてしまつて人間の生活が赤裸々になつた時に、真実な生活そのものがハツキリと目の前に残され、あらゆる虚偽の生活、幻影を追つた生活が全く覆へされ、真の人間生活がヒシ/\とわかつて、百姓ほど強いものはないと言ふ事、真に強い土台になつたものは百姓であることがわかつた。権力や組織に依つて生活を維持してゐた人は全く足場を失つて、非常な窮状に落ち入つた。然るに百姓だけは寧ろ機会に於いて実力を自覚し発揮することが出来た。
 そこで、私はさう言ふ風な事実を見せられると同時に、自然の中に自分が生き、太陽と地球と、木や草や、鳥や、けだものを相手にして、そして自給自足の生活を立てゝゐる間に、私の知識は、今までに経験した事のない力と光りとを持つて、私の心を開き、
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