ゥ、と思ふほど人の声が耳にはいる。急に明るくなつたか、と思ふほど室の美しさが眼に入る。急に熱くなつたかと思ふほど顔がほてつて来た。音楽隊《オルケストラ》では TARANTELLA をやり始めた。
トラ、ラ、ラ、ラ、ラ。トララ、トララ、トラ、ラ、ラ、ラ、ラ。
僕の神経も悉く躍り出しさうになつた。音の節奏《リズム》に従つて、今此の室にある総ての器、すべての人の分子間に同様な節奏の運動が起つてゐるに違ひない。
足拍子が方々で始まつた。立派な体に吸ひついた様な薄い衣裳を着けてゐる女が二三人匙を持ちながら踴り出した。わつと喝采が起つた。僕も手を拍つた。
“HALLO! VOICI”と口々に言つて僕の肩を叩いたのは、先刻の女共であつた。
「後をつけていらしつたの?」
「後をつけて来たのではないの。後について来たの。」
「今夜は何処へ入らしつた?」
「〔OPE'RA〕」
「SALAMMBO ね、今夜は。」
「N'APPROCHER PAS; ELLE EST A MOI!」と一人が声高く、手つきをしながら声色をやつた。僕は、体中の神経が皆皮膚の表面へ出てしまつた様になつた。女等の眼、女等の声、女
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