と不思議な諧調をなして愉快に聞える。動物園のインコやアウムの館へ行くと、あの黄いろい高い声の雑然とした中に自ら調子があつて、唯の騒音でも無い様なのに似てゐる。僕は此の光りと音と香ひの流れの中を瀬のうねくるままに歩いてゐた。三人の女は鋭い笑ひ声を時々あげながらまだ歩いてゐる。
僕は生れてから彫刻で育つた。僕の官能はすべて物を彫刻的に感じて来る。僕が WHISTLER の画や、RENOIR の絵を鑑賞し得る様になるまでには随分この彫刻と戦つたのであつた。往来の人を見ると、僕はその裸体が眼についてならないのである。衣裳を越して裸体の MOUVEMENT の美しさに先づ酔はされるのである。
三人の女の体は皆まるで違つてゐる。その違つた体の MOUVEMENT が入りみだれて、しみじみと美しい。
ぱつと一段明るい珈琲店《カフエ》の前に来たら、渦の中へ巻き込まれる様にその姿がすつと消えた。気がついたら、僕も大きな珈琲店の角《すみ》の大理石の卓《つくゑ》の前に腰をかけてゐた。
好きな 〔CAFE' AMERICAIN〕 の CITRON の香ひを賞しながら室を見廻した。急に人の話声が始まつた
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