木彫ウソを作った時
高村光太郎

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)衣裳《いしょう》

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)冬の日|本郷肴町《ほんごうさかなまち》の
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 私は自分で生きものを飼う事が苦手のため、平常は犬一匹、小鳥一羽も飼っていないが、もともと鳥獣虫魚何にてもあれ、その美しさに心を打たれるので、街を歩いていると我知らず小鳥屋の前に足をとめる。母が生きていた頃だからもう十幾年か以前の事である。或る冬の日|本郷肴町《ほんごうさかなまち》の小鳥屋の前に立って、その頃流行していたセキセイインコの籠のたくさん並んでいるのを見ていたが、どうもこの小鳥の極彩色の華美な衣裳《いしょう》と無限につづくおしゃべりとが、周囲のくすんだ渋い、北緯三十五度|若干《じゃっかん》の東京の太陽の光とうまく調和しないように感じられて、珍らしくおもしろいとは思いながら、それほど夢中にはなれなかった。そのうちセキセイのぺちゃくちゃの騒音の間から、静かな、しかし音程のひどく高い、鋭く透る、ヒュウ、ヒュウという声が耳にはいった。店の奥の方から来るのだが、それが何だか
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