みず垢《あか》じみず、梅林のけはいの何処《どこ》かにしみこんでいる、すぱりとして鋭いくせに、またおっとりした、このドナテロのサンジャンのように直立している山の小鳥の気魄《きはく》を木で出して見たくてたまらなくなり、それから鑿《のみ》を研ぎ、小刀を研ぐのに二、三日かかって、わき目もふらずに彫りはじめて七日目にやっと出来た。出来た結果は思《おもい》の半分にも及ばないが、毎日|懐《ふところ》に入れて持って歩いた。飯屋でもそれを出して見ながら飯をくった。まだ健康だった頃の智恵子が私にも持たせてくれとせがんだ。いつぞや第一回大調和展覧会に出品した木彫ウソを作った時の話である。



底本:「日本の名随筆2 鳥」作品社
   1983(昭和58)年4月25日第1刷発行
   1995(平成7)年10月30日第18刷発行
底本の親本:「芸術論集 緑色の太陽」岩波書店
   1982(昭和57)年6月発行
入力:門田裕志
校正:仙酔ゑびす
2006年11月20日作成
青空文庫作成ファイル:
このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られまし
前へ 次へ
全7ページ中6ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
高村 光太郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング