られぬ疑念なき人なつこさの情にゆたかである。日本人は他民族を不思議に容易にうけ入れる。随分危険なほど明け放ちの性質を持っている。乗ぜられる弱点ともなるが、又これが強大の実力を伴う時民族親和の魅力ともなる。敵さえ包容する大度量ともなる。この像にはその美が「天にはうたがい無きものを」という高度の無垢《むく》にまで至っている。実例をあげていられないが、こういう清らかな人なつこさ[#「清らかな人なつこさ」に傍点]は世界の美の源泉中に類が無い。そして又この美は世界に一つの新らしい美を開く。
神護寺金堂の薬師如来
日本美術の精華を語るに当って、其例を天平期の諸仏像にとるのは世の常識である。これは当然の事であって、飛鳥《あすか》白鳳の輸入期を超えて、其美が漸《ようや》く純日本の形式に落着き、しかも技術の優秀、精神の高遠、共に古今に並びなき発達を遂げた時代であるから、およそ日本美術を語ろうとすれば、どうしても此時期の諸仏像を挙げざるを得ないのである。雄渾《ゆうこん》な構想に加えるに緻密《ちみつ》な工匠的の美意識に富み、聡明《そうめい》な空間組成と鋭敏豊潤な色彩配置とを為し遂げたその純芸術力
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