まだ十分彫刻に於ては現れていない。天象風土に直接関係ある建築の方がかかる点に於て一歩先んじるようになるのは当然であるかもしれぬが、彫刻に於てはその様式踏襲の間にまがう方もなく日本的特質として現れて来る第一のものがまず仏像の骨相であった。白鳳|天平《てんぴょう》に至るまでのその推移のあとをたずねると面白いが此は問題が別になる。
法隆寺東院絵殿に以前安置されていて今は綱封蔵にあるときく此の夢違観音は所謂《いわゆる》天平前期にあたる作であるが、この像の持つ美の要素には十分注目すべきものがあり、日本美の特質を深く包蔵している。わずか二尺八寸余の小像であるが古来世人の恭敬愛慕絶ゆる事なく、悪夢を善夢とかえてくださる御仏として礼拝されて来たという。そういう伝説に値する美が確かにある。この像には既に大陸の影響が十分に消化せられて、日本美独特のものが備っているが、前に述べた清らかさ、高さ、精神至上、節度というようなものに加え、更に疑念なき人なつこさ[#「人なつこさ」に傍点]の美がある。これが大和民族の本能から来ているところに意味がある。大和民族はもともと豪壮勇敢な悲壮美に富んでいるが、また一方他に見
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