しづかに、しづかに
私は今或る力に絶えず触れながら
言葉を忘れてゐる
いけない、いけない
静かにしてゐる此の水に手を触れてはいけない
まして石を投げ込んではいけない
[#天から27字下げ]大正元・八
[#改ページ]
からくりうた
[#天から6字下げ](覗きからくりの絵の極めてをさなきをめづ)
国はみちのく、二本松のええ
赤の煉瓦の
酒倉越えて
酒の泡からひよつこり生れた
酒のやうなる
よいそれ、女が逃げたええ
逃げたそのさきや吉祥寺
どうせ火になる吉祥寺
阿武隈《あぶくま》川のええ
水も此の火は消せなんだとねえ
酒と水とは、つんつれ
ほんに敵《かたき》同志ぢやええ
酒とねえ、水とはねえ
[#天から27字下げ]大正元・八
[#改ページ]
或る宵
瓦斯《ガス》の暖炉に火が燃える
ウウロン茶、風、細い夕月
――それだ、それだ、それが世の中だ
彼等の欲する真面目とは礼服の事だ
人工を天然に加へる事だ
直立不動の姿勢の事だ
彼等は自分等のこころを世の中のどさくさまぎれになくしてしまつた
曾《かつ》て裸体のままでゐた冷暖自知の心を――
あなたは此《これ》を見て何も不思議が
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