ゐる青い空が
智恵子のほんとの空だといふ。
あどけない空の話である。

[#天から27字下げ]昭和三・五
[#改ページ]

  同棲同類

――私は口をむすんで粘土をいぢる。
――智恵子はトンカラ機《はた》を織る。
――鼠は床にこぼれた南京《ナンキン》豆を取りに来る。
――それを雀が横取りする。
――カマキリは物干し綱に鎌を研ぐ。
――蠅とり蜘蛛《ぐも》は三段飛。
――かけた手拭はひとりでじやれる。
――郵便物ががちやりと落ちる。
――時計はひるね。
――鉄瓶《てつびん》もひるね。
――芙蓉《ふよう》の葉は舌を垂らす。
――づしんと小さな地震。
油蝉を伴奏にして
この一群の同棲同類の頭の上から
子午線上の大火団がまつさかさまにがつと照らす。

[#天から27字下げ]昭和三・八
[#改ページ]

  美の監禁に手渡す者

納税告知書の赤い手触りが袂《たもと》にある、
やつとラヂオから解放された寒夜の風が道路にある。

売る事の理不尽、購《あがな》ひ得るものは所有し得る者、
所有は隔離、美の監禁に手渡すもの、我。

両立しない造形の秘技と貨幣の強引、
両立しない創造の喜と不耕|貪食《どんし
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