ら静かに手を取つて
心にかぎりなき喜を叫び
かつ祈る
日常の瑣事《さじ》にいのちあれ
生活のくまぐまに緻密《ちみつ》なる光彩あれ
われらのすべてに溢れこぼるるものあれ
われらつねにみちよ

われらの晩餐は
嵐よりも烈しい力を帯び
われらの食後の倦怠は
不思議な肉慾をめざましめて
豪雨の中に燃えあがる
われらの五体を讃嘆せしめる

まづしいわれらの晩餐はこれだ

[#天から27字下げ]大正三・四
[#改ページ]

  淫心

をんなは多淫
われも多淫
飽かずわれらは
愛慾に光る

縦横|無礙《むげ》の淫心
夏の夜の
むんむんと蒸しあがる
瑠璃《るり》黒漆の大気に
魚鳥と化して躍る
つくるなし
われら共に超凡
すでに尋常規矩の網目を破る
われらが力のみなもとは
常に創世期の混沌に発し
歴史はその果実に生きて
その時|劫《こう》を滅す
されば
人間世界の成壌は
われら現前の一点にあつまり
われらの大は無辺際に充ちる

淫心は胸をついて
われらを憤らしめ
万物を拝せしめ
肉身を飛ばしめ
われら大声を放つて
無二の栄光に浴す

をんなは多淫
われも多淫
淫をふかめて往くところを知らず
万物をここ
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