に明るく、セリュリアン色の蒔箔《まきはく》のように山々の間にういている。遠山はまだ白いが、姿のやさしい、低い山々の地肌にだけ雪がのこって、寒さに焦げた鉾杉《ほこすぎ》や、松の木が、その山々の線を焦茶いろにいろどっているところへ、大和絵のような春霞が裾の方をぼかしている山のかさなりを見ていると、何だか出来立ての大きなあんぱんが湯気をたてて、懐紙の上にいくつも盛られているようで、わたくしは枯草の原の枯木の株に腰をおろして、「これは大きなあんぱんだなあ、うまそうだなあ、」と思って見ている。
ウグイスという鳥は春のはじめは里の方に多くいるもので人家の庭などでさえずるが、山に来るのは初夏から秋までである。山にいても、どこにいてもこの鳥の声ばかりはあたりを払うような美しさを持っている。山では殊に谷渡りがすばらしい。山の春の鳥はまるで動物園のようで、朝夕はまことにおそろしい。鳥の出席率はどうも朝日の多少に左右されるらしい。キセキレイ、セグロ、コマ、ルリ、ウソ、ヤマガラ、ヤマバト、ヒバリ、とても書いていられないほど多い。いちばんふつうに路ばたにいるのは、やはり頬白で、朝くらいうちから「一筆啓上仕候《
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