かなか掘るのにめんどうらしい上、製造に手数がかかるので、今ではこの寒ざらし粉はむしろ貴重品だ。
 薬草のオーレンが咲いたり、又ローバイの木に黄いろい木質の花がさいたりしているうちに、今度は一度にどっとゼンマイやワラビが出る。ゼンマイの方が少し早く、白い綿帽子をかぶって山の南側にぞくぞくと生える。これは干ゼンマイにするといいのだが干し方がむつかしいし、山奥のでないと干すと糸のようにほそくなる。ワラビは山の雑草で、いちめんに出て取るのにまに合わないほどである。とってすぐ根もとを焼かないと堅くなる。一束ずつにしてこれを木灰入の熱すぎない湯に一晩つけて、にがみをとり、あげて洗って、今度は一度煮立ててさました塩水につけこみ、軽い重しをして、水からワラビの出ないように気をつける。もう一度塩水をかえてていねいに漬けると、夏から秋、お正月にかけて、まっ青な、歯ぎれのいいワラビの漬ものがたべられる。ワラビの頃あぶないのは野火だが、これは又別にかく。
 やがて、野山にかげろうが立ち、春霞がたつ。秋の夕方は青い霧が山々をうずめてうつくしく、それをわたくしは「バッハの蒼《あお》」と称しているが、春の霞はさすが
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