鉢開きの形をしていて頬が何処までも長く、滝のようにつづいている。前額の高いのを除いてはこれといって目立つ急な突起は無い。顴骨《かんこつ》も出ていない。下顎《したあご》にも癖がない。その幅のある瓜実顔《うりざねがお》の両側に大きな耳朶《みみたぶ》が少し位置高く開いている。おだやかな眉弓の下にある両眼は、所謂《いわゆる》「目玉の成田屋」ときく通り、驚くべき活殺自在の運動を有《も》った二重瞼《ふたえまぶた》の巨眼であって、両眼は離れずにむしろ近寄っている。眼輪匝筋《がんりんそうきん》は豊かに肥え、上眼瞼《うわまぶた》は美しく盛り上って眼瞼軟骨の発達を思わせる。眼瞼の遊離縁も分厚く、内眥《ないし》外眥《がいし》の釣合は上りもせず下りも為ない。そして涙湖、涙阜《るいふ》が異様な魅力を以て光っている。下眼瞼の下に厚い脂肪層が一度陰影を作り、それから直ぐ鼻翼の上の強いアクサンとなる。此の目玉に隈《くま》を入れて舞台で彼が見得を切る時、らんらんと言おうかえんえんと言おうか、又城外の由良之助のように奥深くじっと見つめる時、それは世紀の奥を貫く眼だ。鼻梁《びりょう》は太く長いが、別に高くはない。高過ぎて下
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