に頼まれて行って三四度当てた。父と時々往来していた牙彫《げぼり》の旭玉山さんのところの無尽講にも、誰かに頼まれて行って当てたことを覚えている。玉山さんは、髑髏《どくろ》の牙彫など拵えると鼻の孔《あな》へ毛を通すと目に抜けるという位の細かい細工をした人だが、この人はなかなか経済家で、彫刻家を糾合して無尽を拵えていたのである。私は小学校時代には非常に不思議なことが出来た。父の弟子の中に武州粕壁から来た野房儀平という男があって、この男の親類に山伏のような人がいて、それでいろいろ秘法を知っていた。私はその男にせびって到頭その秘法を教わった。例えば真赤におこっている炭火を素手に載せて揉《も》み消すことが出来た。堅炭のような強い火ほどいいのである。小学校には昔は炭火をおこして居たので、先生などの居るところでやって見せると驚いて、先生も不思議がって「変だな」といってやってみるが熱くて出来ない。私だけ出来て不思議に思ったものだがなぜか自分でも分らない。秘法を教わって、そうやると熱くないのだという自信があるから、恐らくその為なのだろうが、兎に角|火脹《ひぶく》れにならない。昔熱湯へ手を入れて黒白を争った
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