ミケランジェロの彫刻写真に題す
高村光太郎
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)斯《か》かる
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ミケランジェロこそ造型の権化である。
造型の中の造型たる彫刻は従ってミケランジェロの生来を語るものであり、ミケランジェロの他の営為――土木、建築、絵画、詩歌の類はすべて彼の彫刻家的幽暗の根源から出ている。彼の眼に映ずる世界は一切彫刻的形象としてうけ入れられ、彼の精神の訴は一切彫刻的形象の様相を以て語られる。此の場合に於ける彫刻とは言わば高次の彫刻を意味する。彼の手に成る個々の彫刻は斯《か》かる高次の彫刻自体から直流する彫刻的彫刻に外ならず、此の根源の彫刻性を深く会得しなければ彼の個々の彫刻の持つ奥深い宇宙的性質は究められない。彫刻的面の力学的構成の大から、一本の指のさき、一片の衣襞の屈曲の小に至るまで、それは表面的顕現を統率する彫刻理法の中心につながり、その妙味の汲みつくし難い大洋のような分厚い重さ、重畳たる山又山のような積みかさなりの深さは、まことに世界の中に形成せられた一種別個の世界を見る思がする。
キリスト教芸術の厳しさと、ギリシャ芸術の豊かさと
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