東方における有事の日、その鉄道は、わが辺境を掩護するため、軍事上決してこれを軽忽に付すべからざるを警告せんと欲す。露骨に表白すれば、その鉄道は露国の国境をして、漸次南方に拡張するがために、極めて須要なるものといわざるべからず。たまたま露清両国の境界をみるに、ただ櫛状の如き山岳もしくは河流をもってするいわゆる机上の理論的境界たるに過ぎずして、確乎たる境界線の設定せられたるものなく、この地方一帯の民族が一定の住所なく、肥沃の地を見れば山嶺をこえて移耕し、土地すでに尽くれば、更に河流を渉りて他に転穡(てんしょく)する、いわゆる[#「いわゆる」は底本では「いわる」]水草をおうて転移しつつあるの現状に徴するも、他日必らず露清の境界に関して、一場の紛擾をかもすべきは予測するに難からず。果してしからば露国が今において、その勢力をこの地方に扶植し、牢として抜くべからざる根柢を培養し、天然的国境を清国領土中の荒漠たる地方に求むるは、ひとり露国のために最大の利益たるのみならず、かくの如き境界にして確定せらるるにいたらば、境界の警備は将来何らの費用と労力とを要せざるを得べし。けだしわが辺境のこと、その基礎す
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