肉にも、取調べの最後の日、主任検事は、広島の原爆の講義を被告から聞くために検事団を召集して、黒板を前にこれを学ばねばならぬというような醜態を演じていたのである。陸軍と海軍がばらばらであり、軍部と内務省がばらばらであり、研究者と研究者がばらばらなのである。それでどうして、十万人の集団単位の組織研究をしていたアメリカに勝つことが出来よう。今にして尚、湯川博士は、アメリカに行かなければ実験組織の中に展開してゆく湯川理論を発展する事は出来ないのである。
 アメリカが日本をリードし、制している根本的なるものは、個人的なものの考え方に対する集団的なものの考え方において、遙かに一歩先んじているところにあるかと思われる。
 こういうと、嫌な顔をする人々の顔が、眼に見えるようであるが、好むと好まざるにかかわらず、この集団的な生き方、考え方を、正しくものにしなければ、世界の水準の新しい日本の位置を保つことはできないのではあるまいか。
 この激しい急流の、一方に高まりつつあるもの、そしてそれが低きにしたがって流れている大いなる流れは、この個人から集団への道であるかのようである。
 そこで、この集団の生き方、
前へ 次へ
全10ページ中3ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
中井 正一 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング