方から、集団的な生き方に、生き方が移りつつあるといえるであろう。そして、この集団的生き方に、早くなっていった民族が、未だ個人的生き方でまごまごしている民族よりも、経済でも、軍事でも、何でも盛大になり、強力になってゆきつつある事は、よほど注意すべき事である。
 今世界の問題が米、ソ、の二国のもつ力のバランスによって、大きな影響をうけつつあることも、考え方によれば、一歩先んじて集団的生き方に民族を鍛えあげた民族が、世界の注目を浴びることとなったともいえるのである。早い話が、原子爆弾にしても、米国ではトルーマン声明によれば、十万人の人間がただ一つの集団的研究機関となって、極秘裡に研究していたのである。原子爆弾が一つの勝因ではあったであろうが、考えてみれば、勝利の決定的要素は、この十万人の研究組織をつくることのできたアメリカの国家機構の壮大なる運営才能であったというべきであろう。
 湯川、坂田、武谷の三人共著『真理の場に立ちて』(毎日新聞社)を読んでみると、原子爆弾の研究を軍部から昭和十九年依嘱されて、その見当をつけて研究の最中の武谷氏を、警視庁は思想上の僅かの疑いで検挙したのである。そして皮
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