霧の中のヨードル
中井正一
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)主《ぬし》
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)[#ここから横組み]“Oho………horrr………ooo”
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一九二二年頃の事である。
朝日新聞が写真班を組織して、富山から大町へぬけるコースを募集したことがあった。藤木九三氏、長谷川写真班員等も同行した。
そのとき剱と立山の「主《ぬし》」、かの有名な長次郎と平蔵がその郎党と共にこの行に参加した。
私も、写真機を肩に、一学生として、加わったのであった。
最後のコースは平の小屋、ザラを越えて、大町にぬけるコース。ザラにかかったのは昼であった。
山のピークは晴れ渡っていた。
数里へだたっている立山の頂上の神社の太鼓の音が、虚ろなほど寂かな空気の中を鮮かに、しかし、かすかに、広く広く空を真っ直ぐにわたって聞えて来る。
長次郎は私をいざなって、一つのピークに立った。そして昔の山びと特有のヨードルを高らかに放った。鳶の鳴き方に一寸似た、[#ここから横組み]“Oho………horrr………ooo”[#ここで横組み終
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