民族の血管
――出版機構は常に新鮮に――
中井正一

 生物が生きているというしるしは、それが自分の中の古いもの、疲れたものを間断なく棄てて、日に新たに日に日に新たに、その生きている汁液をめぐらしているというところにある。
 出版とは、民族の思想を、常に新たに、世界の進みゆく情況に応じて、清新の気を民族自身にあたえる機関である。
 文字がまだなかった時代から、文字が出来、書くことを知り、それが活字となることができたとき、いかに人間の社会が変ったか。そして、更に言葉が、電気或いは真空管で送られはじめて、いかに多くの未来が人間の前にまっているか。
 この進展の歴史の一環の中に、出版は巨大な世界が構造をもって、人類の文化発展の血管として、はかりしれない役割をもっているのである。それがどんな小さな街の店であれ、図書館であれ、読書団体であれ、それなくしては一日も民族が、思想を新しくすることができない毛細管、血管として、一つ一つ大切な一部署である。
 しかもこの毛細管の先端こそが、あらゆる内外の病原菌に対決する最重要部であることを自覚さるべきである。ちょうど血液のように、それは老廃したものをそこに
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