止めてはならない。
過去の文化遺産も常に新しい血清によって鍛えられて、より高い文化抵抗素として、書架の上に並ばなければならない。
かくして出版の企画は、実に容易ならざる責任と、それにともなう苦心を要することとなるのである。
勿論販売である限り利潤を追及せざるを得ないであろう。しかし、大きな眼で見るならば、読書力が減るような冒険な企画は、正に注意さるべきである。ちょうど金の卵がほしくて、それを生む鶏の腹の中の卵を取り出して、鶏を殺してしまう愚をくりかえしてはならない。余り感覚を刺撃するようなものばかり出版界が取扱うとき、もし万一大衆が、文字から離れて直接感覚の世界にのみ向えば、出版界は自ら自らを殺す矛盾に立至るであろう。
大きな定石は、出版界の企画は「常に、真実によりそえ」ということである。どんなに一年や二年誤魔化してみても、「真実」、いいかえれば「論理と現実」を十年と誤魔化すことはできない。ヒットラーを見よ、ムッソリーニを見よ。
もっと大きく見れば一六〇〇年代のイギリスの出版界と、ローマの出版界を見よ。前者においてベーコンに、ホッブスに、ヒュームに向って出版界が打立てた自由と
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