圧するような感動を憶えることがあった。
三原から、夜十時すぎの復員列車にぶらさがりながら家にかえる時、このビョウたる自分も、歴史の中に、その生きる意味を、今の瞬間もっているかもしれないという、ちょっと甘いセンチメンタリズムに落ちることもあった。
カント講座は尾道でも三原でも七月まで続けられた。七月には両市で青年講座を計画するに至った。尾道は、七月二十八日より八日間、毎夜七時より十時まで二講師ずつというプランであった。
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資本主義批判 青山 秀夫
新憲法論 田畑 忍
労働組合論 住谷 悦治
論理学における新しき展望 中井 正一
芸術における東洋と西洋 須田国太郎
ソヴィエートの実情 前芝 確三
[#ここで字下げ終わり]
会費は二十円であった。青年会の内部でも聴講者百名位という軟論もでて、議論が沸騰したけれども、ついに断行と定まり、悲愴なる幹部の緊張振りは、はたで見る眼にも著しかった。私も何か祈るような思いであった。思えば三名五名の聴講者をもつ経験をした自分にとっては、せめて三百名の聴講者を祈らしめた
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