のである。講師は自分の家に宿めて、後は野となれ山となれでぶつかる気で自分もこの夏の陣に対した。
 開講三日前にやっと二百七十名の報告を得た。やれやれと思った。団体加入三十名以上十五円、五十名以上十二円、百名以上十円という苦肉の策も計っていたので、最後の締切りの日まで見当がつかなかった。その日になって見ると意外にもグッと六百五十名となって、今度は断わらなければならなくなってしまった。青年会の連中は今度は鼻息あらく、「断然断わります」などと頑張っている。私はほんとに心の底から、「よく来てくれた、有難い」としばらく眼をつむったのであった。
 第一夜、七時頃、街の本通りはノート片手の小ザッパリとした青年と処女が、一つの方向に向う陸続とした行列で満たされた。
 住谷君は毎夜、丘の講堂に登って行く男女の群を見上げて、「好いなあ、お祭りだなあ」と言って立止った。それはまた、夏涼みの市民に対して八日間ぶっつづけのデモンストレーションでもあった。皆この美しい、若い、青年と処女の、絶えざる歩みと結集に眼を瞠らずにはいられなかった。戦が終って、文化への結集へと立上ってゆく巨大な群像となって、何か圧迫的なもの
前へ 次へ
全13ページ中8ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
中井 正一 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング