ティバルをする事となった。演劇班はシュプレッヒ・コールをして、戦の間中、「この花を見たかった! 見せたかった!」とマイクと集団をもって花の中に展開した。これは、青年全体の二百名からの集団的訓練と組織と、市民への関係を確保せしめるのに役立った。終戦後初めての桜の花は、彼等にとって夢のように楽しいらしかった。
四月からの文化運動は新たなすがたをもった。私は「カント講座」を計画した。百五十年の立後れをもったドイツのこの啓蒙学者の理論は、三百年の立後れをもち、しかも封建残滓を急速に脱落しなければならない日本に一つの一階程となるのではないかと私には思われた。私はこれを実験にうつした。この計画は案外な反響を生んで、尾道では七十人の毎週連続聴講生を続け、隣の三原市では労働者をふくめて百人の聴講生をもった。私はルネッサンスが眼前において起るのを見たいという野望を胸に描いたのである。カントの言葉を借りて、封建より脱落して、自我の尊厳へ青年達を導くとき、時々、ルネッサンスの中に火に炙られようが、獄に投ぜられようが、乗越え乗越えてやって来た、荒々しい学者どもの魂が、亡霊が、うろつきさまようかのような、胸を
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