まず第一に指摘せねばならぬ重大なことは、わが国では技術系統の専門家は公平に待遇されておらないことである。このことは、明治以来の問題であったが、戦後においても余り変わっていないようだ。日本の社会はまだ、科学を尊重し専門学を充分に認識するまでに進化していない。現在、研究調査は国家予算によって賄われているものが大部分であるから、例を官界にとる。わが官界はかつて高文官僚の独占であって、行政系統の官吏は早く課長、局長、次官の出世コースを進むことができたのに反して、技術系統の官吏は傍系として出世街道から長くとり残されていた。この空気は現在でも余り変わっていないようだ。調査マンも一種の技術家であるから、往時の技師と同じ立場におかれている。
 もっとも、以前は調査部などに入る者は、官民を問わず、活社会で働けない不健康者や無能者が多かったようだ。調査部などに入れば、出世はできないものと自他ともにきめていたようだ。しかし、大正時代以降、社会問題に刺激されて調査マン生活に入った者は、学問的能力においても人格的にも一流官立大学の教授に劣らない人もいたのであって、調査マンの素質は一変している。けれども依然として
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