どで速報的に処理されるので、作業そのものが拙速で権威のない仕事に陥りがちである。総じて欧米先進国に比べて、わが国では学問と調査との隔りが大きい。学者は深遠な学理を探求することをもって誇りとし、調査的な仕事にたずさわるのは学問の堕落のように考えられている。他方、調査機関の側では、学者の研究はすべて迂遠であって役に立たないときめておる。双方が互いに敬遠し、軽蔑し合っている有様である。
 だが、ちょっとした調査でも、基礎的な学理の背景なくしては、権威ある業績とはならない。深遠な学理を、日常の業務に役立つように消化し普及させるには、学問と実務との双方のセンスを身につけたスペシャリストの介在が必要であろう。わが国では、学者というとひどく迂遠であり、また調査マンというとひどく拙速屋であって、両極端をなしているが、先進国では両者の距離はもっと接近しているようだ。わが国でも、学問―調査―実務の関連が、もっともっと緊密になることが望ましい。それがためには、学問と実務との橋渡し役をする多数の優秀なスペシャリストが必要であるが、わが国の社会には、優秀なスペシャリストの養成を阻害する重大な要因がひそんでいる。
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