した。
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複雑な現代社会の運転に指針を見出す必要からして、各種の調査研究機関が生まれたが、それらの中には純粋な民間機関もあれば、半官半民の機関もあり、また国家機関もあり、その形態ははなはだまちまちである。ところで調査研究機関は、政府の束縛をうけないで、自由な立場で真実を探求するところにその妙味があるのであって、それがためにはヴォランタリイ・アソシエーションの形態が望ましいのである。事実、自由主義的・民主主義的国家においては、任意団体、民間機関として立派な業績をあげた調査研究機関が多いのが、一つの重要な特徴をなしている。例えばイギリスのフェビアン・ソサイエティを想起せよ。この種の機関の歴史は、ベーコン以来の経験論哲学の伝統をもつイギリスが最も豊富である。次はフランスであろう。
しかしながら、近年になって欧米諸国では、民間機関に比して国立の研究調査機関の比重が次第に増大しつつある。これは自由主義国家観から福祉国家観への転換の反映であろう。すなわち、完全な自由放任は決して福祉をもたらすゆえんではなく、国家の積極的参加が必要とされるようになったので、国家のなすべき仕事は増大し、各官庁の調査業務は膨張したのみならず、次から次へと各種の国立の調査研究機関が生まれた。他面、民間調査機関は財政難になやまされるようになった。資本主義企業の利潤率が低下したので、その利潤のおこぼれで支持される民間調査機関の財源が苦しくなったのである。
任意団体の発達を特色とするイギリスにおいても、研究や調査を自由に放任する時代はすでにすぎて、国家が科学政策をとりあげるようになった。デパートメント・オブ・サイエンティフィック・リサーチという独立の官庁が、科学研究を統轄している。これは直属の研究所を二十ももっており、主として物理、医学、農学などの分野にまたがっている。その他、政府内にカウンシル・オブ・サイエンス・ポリシイがあり、また国会内に科学者をふくむ委員会が設けられて、科学政策を計画的に推進する体制がとられている。科学的研究を工業化することを助成する公社が創設されたことも、注目に値する。
フランスもまた、国家が科学政策をとりあげている。文部省の外局に科学研究中央局が設けられて、科学政策を統轄している。フランスでは、政府が直接に研究調査を補助する形式ではなく、例えばある業種の業者の間にセン
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