、自分独特の世界を切り展《ひら》きつつある。
 そこで、シナリオ・ライターが、大衆の知恵を、どう測定し、どの角度から、その懐ろに飛び込んでいくかが、大きな問題となってくるのである。
 ことに、一体、日本の大衆とは何なのか。
 日本は、世界が、一度も実験したことのない、歴史的実験を試みている。
 それが島国であったからできたことであるが三百年にわたって、国を外国から断ち切って鎖でとざしてしまうことができたという、とんでもないことをやってのけたのである。
 国の文化を、冷蔵庫の中に閉じ込んで、じいっと、そのままに三百年も、凍らせてみるという大実験をしたのである。
 そこには二つの大きい問題がある。
 一つはプラスとも思えること、一つは何といってもマイナスにしかすぎないことである。プラスといえるものは、三百年もの間戦争をせずに人間が生きてきたことである。このことから、妙な、凝った、ひねたものまでが、その美を追求し、手の込むのを何とも思わない遊びにまで発達した。ここに外国にさがせないものが発生した。雛人形の凝りに凝った儀式と、その大衆的遊びかた、あるいは、春は花見、夏は七夕、川開きの花火、明月
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