生きている空間
――映画空間論への序曲
中井正一

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)皮肉《イロニー》

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)ロマン的|皮肉《イロニー》

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)[#ここから1字下げ]
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 ヘーゲルの弁証法が生れる周囲には、その頃の青年ドイツ派ロマン的|皮肉《イロニー》があると考える人々がある。ロマン的皮肉とは、ヘーゲルの友人のゾルゲルで代表されるところの一つの表現、自分達の凡ての行いや言葉のすぐそばに、「黙ってジッと自分を見つめている眼なざし」があると云う一つの不安と怖れである。自分の反省の中にある、限りない圧迫感である。自分の中に、いつでも自分をすべりぬけて、自分を見いる眼があることへの苦悩である。
 この皮肉(イロニー)、不安は、その頃の青年ロマン派の人々の合言葉であり、共通にあったドイツ近代精神の流れでもあった。それをブランデスは次の様にしるしている。
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「病的な自己省察よりも、より大いな不幸と苦痛はあるまい。人々はその際、自分を自分より切
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