は、いわば、貨幣のかわりをしていた。肉にも変われば、酒にも変わった。岩波書店の本は、地方書店には出なかった。先ず、菓子屋か、肉屋かの息子の手に渡ったのであった。図書館のように、一冊の本を買うのに稟議の印が三ヵ月もかかるところでは、良書はまわってこなかったのであった。
 苦々しいこころで、図書館長である私は、このありうべからざる現実を凝視していた。自分の金のプールをつくって、かろうじて良書を図書館に確保していたのであった。
 大阪へリュックサックを背負っていった、この田島の一青年は、私の図書館が集めえたよりも、もっと良書を、私の眼前に、そのリュックサックの中から取り出して見せたではないか。
 私の腹の底には、消せない憤りが、沸りたつのをどうすることもできなかった。
 いくら、私が怒ってみても、そこには、どうすることもできぬ、機構の幾重にも張りめぐらされた、謬りが、蜘蛛の巣のように横たわっているのであった。
 その謬りの果、辿り辿ってゆけば、やがては、それは政治の、法律の欠陥にまでたちいたるのである。
 地方の涯で、どうすることもできぬ謬りに直面しているものの歯ぎしり、これは、世界のどこに
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