図書館に生きる道
中井正一

 人々が自然の美しさの中に見とれるということは、その中に定かではないが、漲っている深い秩序にあっと驚き、その中に、溶け入り、ともに秩序に諧和し、それと一つになり、力がぬけ、それに打ち委す心持ちのことである。
 この宇宙に対決するものにとって、一つの、そして、唯一つの驚きは、その中に、測ることのできぬ秩序が、厳しく、その道を辿っていることである。
 ときには、それが、混沌と偶然とに見えるときがある。しかし、それは、常に、ポアンカレーがいうごとく「予期しなかった秩序」であることに、人々はさらに驚いたのである。
 一片の雪にも、一本の草にも、一匹の虫の眼の組織の中にも、驚くにたえた秩序がひそんでいる。
「文」という字、「圖」(図)という字の成立も、この現実の中にひそんでいるアヤ、線、機構のもつ、くしきまでの秩序への驚きの記録である。
 言語ができ、文字ができ、機構ができあがってくることは、この宇宙のもつ秩序と法則を、意識の中に再確認し、その驚きを沈め、この法則の中に、生活そのものを溶かし込むことである。水の落差は、その法則の線を辿って、電気となり、光となって、都
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